沖縄の長寿の諸要因|沖縄 やんばるヘルスプロジェクト

沖縄の長寿の諸要因

沖縄の長寿の諸要因

平均寿命や百歳長寿率、さらには三大生活習慣病による死亡率などの諸統計指標から、沖縄はわが国の代表的長寿県である。

人の寿命や健康には遺伝要因や気候、空気、水などの環境要因、保健・医療・福祉など諸制度の充実条件なども影響を及ぼす大きな要因であるが、個々人のライフスタイルもそれに劣らず極めて重要な要因であることが認められてきた。

長寿県沖縄の高齢者の健康も、沖縄独特の風土の中での日々の暮らし方にその要因がある。

沖縄の長寿を支えている要因は下図に示すように多岐にわたっており、それぞれの因子が深く関連しあいながら結果として現在の長寿県を支えていると理解される。

福寿を支える主体

1 )沖縄の自然環境条件

沖縄の亜熱帯海洋性気候は気温の年格差が小さく、そのため年中温暖で活動しやすい。 またきれいな海水、豊かな自然は生活の場として極めて恵まれていると言えよう。 ─人もし天寿を全うせんと欲せば須らく沖縄島へ移住すべし。 沖縄島は日本屈指の健康地にして、しかも安全なる船の如し。 草木鬱蒼四時緑を帯び、気候温和夏は涼しく冬暖かにして優に渾円球上の公園となすべき資格あり─。

これは明治の半ば頃沖縄を訪れ、調査した京都帝国大学の松下教授の一文である。

2 )長寿者のライフスタイル

長寿村として知られる大宜味村の高齢者の健康像を血液生化学値でみると、アルブミン、ヘモグロビン、血清総コレステロール値が東北秋田地方の農村の高齢者に比べると、良好な状態を維持していた。食生活の面では秋田地方の農村に比べ、肉類(特に豚肉)の摂取量が3倍、大豆に代表される豆類の摂取量が1.5倍、緑黄色野菜の摂取が3倍も多く、食塩摂取量では秋田の13.8gに比べ9gと極めて少ないという特徴が見られた。健康を支える「食の重要性」は今さら言うまでもない。

豚肉や豆腐、緑黄色野菜、海藻類の摂取量の高さや食塩摂取量の低さは全国との比較に於いて現在もその特徴を留めている。

気温の年較差が12.3度の沖縄では本土と違って一年を通じて野外での活動を可能にしている。 この事は冬の間屋内で静かな生活を強いられる場合が多い本土の自然環境とは格段の違いである。 このような環境下で季節に関係なく、大宜味村の高齢者は、高齢になっても体が動く限りは畑仕事をしたり、村の伝統産業の芭蕉布の糸紡ぎをしたり、運動やその他の社会活動を続けている。

従って当然のことながら秋田の農村の老人に比べ日常生活動作能力(ADL)も高いレベルにあり、就労率にも大きな違いが見られた。この村では仕事も生きがいと感じている高齢者が多いが、同様のことは本県の老人全般にも言えることであり、生産的加齢(プロダクティブ・エイジング)を日々の生活の中で実証しているのである。また大宜味村では高齢者の多くが独居または老人夫婦のみであるが、寂しく静かな生活ではなく、友人同士の交流や別居の子や孫達との交流も盛んであり、特に「頼りにし、心やすらぐ相手」としての友人との日常的な交流は老人達の生活適応性を高めている。

また大宜味や佐敷での睡眠健康に関する調査では両地域の老人達は睡眠時間が短いにも関わらず睡眠負債が少なく、睡眠に関わる愁訴も極めて少なかった。散歩や昼寝、運動量などに大きな違いが見られ、これらの結果は沖縄の高齢者の睡眠健康の維持に生活スタイルの良さが深く関わっていることを強く示唆している。

食生活の面では
  • 肉類(特に豚肉)を過不足なく食べる
  • 豆類(特に豆腐)をよく食べる
  • 野菜類(特に緑黄色野菜)を多く食べる
  • 海草類(特に昆布・もずく)を多く食べる
  • 食塩摂取量が少ない
運動の面では
  • 生涯現役意識が強く、高齢になっても仕事をもっている者が多い
  • 老人会の活動・ボランティア活動・地域の伝統行事への参加率が高く、社会的活動性が高い
  • 運動(スポ-ツ)・散歩の習慣を持つ者が多い
休養の面では
  • 昼寝の習慣を持つ者が多い
  • 夜の睡眠の質が良い

3 )精神風土

沖縄の自然と、そこで生活を営む人間社会における風俗・習慣とが織りなす複雑なつながりの中で、沖縄独特の精神風土が形成された。ものにあまりこだわらないおおらかな心を持ち、あくせくせず、自然と共に歩み、生活するようなのんびりした余裕のある心のリズムをもち、情緒豊かで、人情味のある性格や人的にも精神的にも近隣所と垣根のない、深い交流のある生活をしていて、共同体意識が極めて強い。そこからユイマール(相互扶助)の精神や他者とも分け隔てなく付き合うイチャリバチョーデーの県民性が培われ、心身をうまくコントロールし、豊かな人間性が培われ、健康にも良い影響を及ぼしているものと思われる。 沖縄の持つ癒しの力の本態はまさにここにある。

以上のことが沖縄の長寿文化を支える高齢者の主観的健康感・生きがい感・生活意欲の強さにつながり、結果として高齢者の長寿を強く支えていると思われる。 本県における健康づくりは当然のことながら、先輩長寿者のこのような生き方に学び、まず個人個人が健康的なライフスタイルの確立に努めることが肝要である。